第57話 悲しみもメトロノームのように

死を超えるプロセス

クールな友人の旦那さまの告別式

 1月7日、友人の旦那さまの命日にLINEを送った。「覚えていてくれたありがとう」の返信

 2020年1月、彼女の夫は亡くなった。

 私の夫が亡くなる半年前で、新型コロナウイルス感染者が数名でただけで話題になった時期だった

 

 告別式に参列しながら、家族の思い出スナップが流れているのを、ぼ~っとみていた。

 もちろん、数ヶ月後に同じ立場になるとは、予想もしていなかった

 

 小・中・高校が一緒だった友人は、スポーツが得意でボーイッシュな性格

 中学生の時は、学年で人気者の男子が彼女を好きで、当時はメチャクチャ羨ましかった。

 高校まで特定の彼と付き合うことなくバスケ一本、クールな感じのサバサバ系女子だった。

 

 数十年ぶりに同窓会であった時、子煩悩な母親になっていた。

 子どもの進学や就職のことを真剣に相談している彼女をみて、なんとなく似合わないなと思ってしまった。

 旦那さまの話になったら、恥ずかしいのか、話題をそらしクールに話をまとめたので「お、彼女らしさ残っている」と思わず頷いた。

 

 彼女の旦那さまの告別式での家族スナップ写真

 そこには、しっかりした長男、聡明な長女と可愛らしい次女に囲まれて“お母さん”している彼女

 そして、建設関係の仕事が似合う厳つい旦那さんのおおらかな笑顔が印象的だった。

負のスパイラルから抜け出せない

 私の夫が亡くなり49日法要の頃、電話で、彼女の夫が亡くなるまでの経緯を聞いた。

 

 「顔面にできる腫瘍で、本当にまれな癌の一種。診断を受けて1年も命はもたなかった

 「健康には誰よりも気を付けて、少しでも気になることがあれば病院受診する人だったのに」

 「稀な癌なんて、なんで私の夫なの。なんで。疑問と悔しさが毎日頭の中をうずまいている

 「海外留学して、やりたいこと十分させてもらった長女は、父親にこれから恩返しと思っていただけに、立ち直れないでいる」

 

 電話口から送られてくる悲しさの波動

 「時間が経つほどにに悲しさは増すばかり辛くなるだけ。どうしたらいいか分からない」

 

 本当にそうだ、「なんで」という疑問は何百回繰り返されても、答えがない

 時間とともに薄れていく、と思ったのに、増していく

 悲しさは増すんだ。

持ち帰ったメトロノーム

 

 ふと、目の前の机を見ると、古いメトロノームがポツンと置いている。

 夫の実家を壊した時に、メトロノームだけ夫は手に取ってきた。

 夫は中学1年までピアノを習っていて、先生が大嫌いだったが辞めると言えなくて仕方なく通った。メトロノームは練習用に使ったという。

 実家のものは全て捨てたのに、最後にメトロノームだけ手に取った

お勧めこ豚
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 振り子を思いっきり右にはじくと勢いよく左右に揺れ、一定のリズムを刻み、やがてゆっくり速度を落とし、その音だけが部屋に響いた。

 

 死を悼むプロセスはメトロノームのようだ

 

 悔しさと切なさ、悲しさと愛情が、定速度で交互にやってくる

 強い力を加えると激しく早く揺れるそのふり幅は、少しずつゆっくりとなる。

 

 この感情もいつかゆっくりと左右に揺れるのだろうか、いつか、止まってくれるのだろうか。

 

 「いつか」を呪文のように言いあって、励まし合う。

 それがいつになるか、分からないけれど、今は、こうして語れる人がいる、それだけでいい。