第34話 息子が高校落ちたら”私”に戻った!?

死を超えるプロセス

息子が高校に落ちた

 復職しても相変わらず空虚な日々。中古といえど、マンション購入した以上、辞めるに辞めれない。
リフォーム提案しないといけないが、息子二人は高校受験。

 ひとまず家族の生活モードを高校受験に照準を合わせた。二人は異なる高校を志願し、どちらも合格ラインを下回る成績。

 が、沖縄の受験とはそんなもんだ、当日の筆記テストで点数をとればいい、乗り切れる。

 特に野球部息子は、ここ3ヶ月、人が変わったように勉強していた。母親は朝ダラダラと寝ているのに、早く起きて体調を整えていて、頼もしいと思った。

 

 これで何も心配することはない。希望の高校に入り、大学へ行き、息子達なりの人生を歩むだろう。そして…心をどこかに置いてきた母、私だけが、ここに残されるんだ‥…

 

シナリオはそうだった…   

 合格発表の日、テニス部息子は合格し、野球部息子の受験番号はなかった。

再受験で走り回る

 不安と期待でベッドにグズっている野球部息子に言った「ダメだったよ。はい、起きて。次の高校考えないと」

 ギリギリの点数でも期待していた息子もしばし呆然。そして「マジかぁ」と布団にくるまった

 二次募集している県立高校へ志願するタイムリミットは1日。強豪野球部のあり大学進学にも対応できる私立高を滑り止めに合格していた。てっきりそこを選ぶと思った

 ところが、「チャンスがなさすぎる3年は辛い」と、強豪野球部のある実業高校を受験したいと言い出した。中学校を通して出願するので早く決めないといけない。

 そこからは秒速で動き、相談できる人に連絡しまくった。

 高校野球の監督している友人、合格している私立高校の進路担当者、強豪私立高校野球部に所属したがスタメンではなかった卒業生とその親、中学校の野球部顧問の先生。同時に受験予定の高校情報も集めた。

 連絡とったすべての人と話し終えた息子は、自分なりに気持ちを整理し、中学校担任の前で実業高校の受験を申し出た。

 

 夕方には合格した友達と会い「俺は高校落ちました~」とSNSに投稿。昼間の泣きはらした顔を思い出し、息子なりの強さが身に染みた

 私がしっかりしないと…母としてしっかりしないと。

 ふと自分をふりかえる、彼が逝った告別式以来、こんなに機敏に行動したことはなかった

天国の夫に文句を言いたい

 二度目の受験を終え、二度目の合格発表で胸をなでおろし、入学準備をして、高校のオリエンテーションを終え、入学式日を迎えた

 実業高校の入学式に参列しながら、丸坊主頭の息子を眺めていた

 高校受験くらいはスムーズにいくと信じて疑わなかった。追い込みかけた勉強も順調だったし、受験番号もラッキーナンバー、名だたる神社へお参りし、できる”願かけ”はやった

 なにより中2でお父さんが亡くなるって、なかなか、ないことだよね

 そりゃあ、父親は守護霊のように見守るよね。

 えっ、ちょっと、あなた、見守ってた?  えっ、なんで落としたの?

 試験監督からあなたの姿は見えないよね、だから、試験の解答、直感って形で教えてあげられるよね

 ちょっと、生きて時に守れないのはいいとして、死んでも力になれないわけ?

 少しは役に立つ父親になれないの!? 死んだら少しはやってくれると思ったら、死んだ後もやってくれないわけ

 でてくる、でてくる、私の悪態空虚だったはずの心のなかから、こんなに言葉が湧き出るなんて。

 

 こんなに彼に怒ったの何年振りだろう。彼が生きている時の夫婦喧嘩は、いつも、私はこうやって怒っていた

 今、天に向かって、彼が生きているように文句を言っている

 

 そう、いつのまにか、”私”に戻っていたのだ