第33話 借金は生きるエネルギーになる

死を超えるプロセス

何もかもが空っぽに

 ブログが書けなくなった。書くことがなくなったわけではない

 ”何かする”という気力が失せたのだ

 彼が逝なくなり、1年忌を経て、しばらくすると…ピタッと時間が止まった

 仕事のヤル気がどこからもでてこない「同僚に迷惑かけられない」と気張っても、何もでてこない

 毎朝、家をでるのが億劫で、太陽浴びると涙が出てくる。

 仕事中にどうしようもない空虚感に襲われ、オフィスの最上階に駆け上がり街をながめ、席に戻る。

 帰宅後の暗くなった空をみると、やっぱり泣きたくなった。毎日毎日それを繰り返した。

 担当プロジェクトが終了したその日、もうどこにもヤル気は残っていなかった。

 休職することにした。本当は彼が亡くなる前にすべき選択だった

 ど、しなかった。

 亡くなる1か月前、出勤しようとする私に彼は頼んできた「休んでくれないか。傍にいてくれないか」と

 みたことない、夫の弱さとまどい、彼を抱きしめベッドに寝かせてから、出勤した

  その朝が何度もフラッシュバックする

 一番必要な時に休職できず、今さら”自分のために休職を選択する”自分を許せない、と思った。

亡くなった人への喪失感とは?

ヤル気のない私をみて喪失感なんだね」と言われた。

大事な人を失くした時の空虚感のことだろうか。

 喪失感をゆっくり味わっていけば悲しみが乗り越えられる、喪失感のプロセスが大切だという

 喪失感のプロセス? 

 言葉遊びにみたいでよく分からない

 ポッカリ空いた心の穴をどう埋めていいか分からない。

 

 休職期間に遺品の整理をしようと思っていた。 が、彼に関わるものに触れることすらできず、1か月が過ぎた。

 

 元気を出させてくれそうな、スピリチャル系ブログ、自己啓発系ブログ、占い…読みあさった

 元気になりそうだ、と思って外出すると、太陽の光がまぶしくて、泣きたくなった。

 一体いつになったら悲しみがなくなり、一体いつになったら自分を責める声が聞こえなくなるのだろう

 もう元の自分に戻る自信がなかった

借金はヤル気の源泉

 友人に中古物件の下見に誘われた。シンガポール在住の友人は結婚生活30年で離婚。専業主婦から起業を決意し、ひとまず沖縄の活動拠点で物件散策

 彼女について回り、数か所見ていると、遠足気分になり、気がまぎれた

 「自分の持家に住みたい?」と聞くと、野球部息子は「庭があるなら住んでみたいけどマンションなら今のアパートがいい」。

 テニス部息子は「景色がいいなら家欲しいけど、無理だと思うから今のアパートがいい」

 私たちは、この長屋的アパートをこよなく愛していた。

 シンガポール友人が帰国した直後、不動産会社から「築30年のマンションですが…庭もあり景色も良く、価格も…」。

 シンガポール友人は写真と間取りをみていった「条件に合う! 買え! 絶対後悔しない」

 

 迷ったついでに、あちらの世界が見える人に、夫の気持ちを聞いてみたらこう答えた

 「自分の家? そんなにほしいなら買えばいいさぁ。どうせ俺は(この世界で)何もできないんだから」

 答えになっていない…。あちらの世界にいっても頼りにならない夫だ。どうしよう…。

 銀行ローンの審査もパスした50代で借りられることにも驚く。

 24年ローンにした……80歳手前じゃん。80歳前まで払えるのかなぁ…

 でも、まぁ、いいか、払えなくなれば、売ればいい。

 ほどなく購入を決意した

 

 1カ月と数日仕事を休み、心の休養と遺品整理をするはずが何一つ手をつけなかった。その代わり、マンションと24年のローンに手をつけた。

 

 「ふ~、ひとまず、仕事は続けるしかないな」

 …というか、なんで、私は、また、何かを背負ってしまったのだろう。

 あれっ!?こんなはずじゃなかったあれっ、私はどこへ行こうとしているの

 

 ちょっと、愛するわが夫よ、私の選択は正しいの?どこに行くの? 何か答えて!

 

 シンガポール友人は私に言った「借金は生きるエネルギーでもあるんだよ」と

 借金エネルギーに押し出されて、私はまた”日常”という日々に戻ることになった