第45話 私には魔女の友達がいます

首里に暮らして

偶然か予知能力なのか

 ママ友から緊急の電話が入った。義母(夫の母)が後頭部を怪我して治療しているから病院に迎えにきて欲しいという用件だった 

「義母が怪我? ママ友が義母と一緒? ママ友が義母と病院? なんで?」と多くの疑問を抱えて病院にかけつけると、後頭部を3針縫った義母が待合室に座っていた

 ことの経緯を聞くと、そのママ友は、義母のことがふと気になり、尋ねてみたら、玄関にカギがかかっていなくて、台座の角に頭をぶつけて血を流していた義母が助けを求めていたとのこと

 他人であるママ友が、友人の母(つまり義母)宅を訪ねたら、怪我したてホヤホヤに遭遇! そんな偶然がふつうにあるのだろうか

 やっぱり、そのママ友に魔力があるんだ……

 そう、私と夫は以前から魔力があると思っていたのだ

予知能力か魔力か

 そのママ友は保育園で最初に親しくなった保護者。

 細身で可愛らしいのに、歯に衣着せないストレートな話し方に最初は面食らった。が、裏表のない実直さに魅かれ、熟成させながら親しい間柄になった

 彼女は、何かと不思議だった

 発想が豊かで「こういう仕事が、商品があったらいいのに」と言うと、たいてい数年後に商品化されたものがトレンドに。

 味噌や酵素から子どもの仮装衣装、なんでも作る。モノを(人間のように)丁寧に扱い、自然にも話しかける

 雑談スタイルで悩み事を話したら、問題点を見ぬき、その場で解決策を提示する。居酒屋で私たち夫婦が口論になると、上手くいさめる

 タイミングがあまりにもいいので、夫は「何でもお見通しって感じ‥‥本当は魔女じゃないか」と言うようになり、私達夫婦は、彼女のそんな小さな魔力を密かに楽しんだ

 夫が逝く3か月ほど前、魔女ママ家族と北谷アメリカンビリッジに泊まった。

 体力が落ち外出できなかった夫は、久しぶりの遠出にウキウキしていた。

 出がけに、ちょっとしたことで、野球部息子と私が口論になり「俺はどこにも行かない」と息子がだんまりをきめこんだ

 怒って息子だけを置いて出発しようとしたら、魔女ママが部屋に入り息子を説得

 バツの悪さからなかなか腰を上げない中2の反抗期を、どう説得したかわからないが、1時間後、気分を持ち直した息子が合流

 町半分が米軍基地の北谷町、アメリカンと観光客が混在する海岸で、バスケする息子たちの姿を見ながら、夫は気持ちよさそうに寝そべって、まったり過ごした

 

 

あとで聞いたがこの外出は家族全員じゃないとダメ。絶対に後悔する。何が何でも野球部君を連れだす」と決めていたそうだ。

 彼女は夫のこれからを予想し「後悔しないよう付き合っていこう」と自分の家族に言っていたそうだ

 

愛の魔力が形になる

 

 夫が逝って四十九日法要、1年忌も法事を、台所で家族のように全てこなしてくれた魔女ママ。

 一緒にむ時は必ずグラスを一つ余分に用意し、夫へ乾杯をする。「いつでも、そばにいるさぁ」とビールをそそぐ。彼女の魔力で夫がいるような気分になる。

 義母が病院で縫合したその日から、義母の家に長らく顔を出していないことを反省して、できるだけ電話したり尋ねたり、買い物を手伝う機会も増えた

 「なんか、私、良い嫁になってるみたい」と彼女にLINEすると「それは普通です」と返ってきた…ありゃりゃ

 

 その彼女が『沖縄スーコーカレンダー』を作成。長年抱えていた想いを形にしたという。

 大切な人の「命日から33回忌までを記録できる」特製カレンダー。

 

 あるようでなかったカレンダーは、先日、地元新聞の記事にもなった。

 

「売れるかどうかより、”作らないといけない”という使命からやっと解放された」と呟いた。

 少しお茶目に笑いながら私の曾祖母はノロだったんだよね」とつけ加えた

 天にいる夫よ、魔女疑惑の謎がやっと解けました