第47話【夫の記事】もっと話が聞きたい

新聞記者として

★ブログの隙間をねらって、私の好きな夫の記事を載せます★

 

…オイ、おーい、…〇〇さん!

見慣れた市職員の含み笑いが目前に浮かび上がった途端、われに返った。


隣の答弁席から身を乗り出した彼に肩を揺すられ、きょとんと周囲を見渡すと、委員会に居並ぶ市議会全員が噴き出した。

居眠りだけならまだしも、突発的な大いびきで審議を止めたと知り、血の気が引く。

頭を下げまくったが、後の祭りだ。


「記者さんも大変ねー」苦笑いの議員らの温かい掛け声に少しは救われた気がしたが、数日は議会取材への足が鈍った。

 

 ほぼ毎日午前様。ライバル紙に抜かれた日には「きょうの運勢」に悪態をつきつつ早朝出勤。

 能力不足でため込んだ仕事をこなそうと休みをつぶす生活に、憤怒を通り越した家族が真剣な顔で聞いてきた。「こんな仕事ずっと続けるつもり?」


 一瞬、言葉に詰まった。「今後は家庭に生きる。ぜひご理解を…」


 仕事にかこつけ、ほとんど習慣化した”中の町通い”がばれるのを恐れ、慌てて説得に当たった。

 

 手作りイベントにかけた街の活性化、経営難にあえぎつつ奮闘するこどもの国やコリンザ、衆院解散をめぐる市議団の動きなど、知りたいことは山ほどある。

 自立を熱望しながらも他律的な生きざまを余儀なくされた沖縄の一面を象徴する基地の街。
 この地で明るく、したたかに生きる人々に魅かれる。話が聞きたい。

 

 張り込みや夜討ち、思いつく限りの手法を駆使して駆け回る日々。悲しいこと、つらいことも多い。

 でも、一見、複雑に絡み合った世の中の糸を頭をひねりながら手繰っていくと、意外な物語が見えてくる。


 その面白さがやめられない。

≪1999年12月16日付け『記者の余禄』より≫