第48話 世界で数個しかないイス

首里に暮らして

こうゆうさんのイス

 我が家には世界で数個しかない万能な椅子がある。

 丈夫な木で作られた約30㎝四方×高さ20cmの小さいけれど、安定感がある「こうゆうさんのいす」

 

 我が家の洗濯機は容量10㎏の縦形で、身長150㎝ちょいの私が洗濯物を取り出すと底に手が届かない。そんな時、この椅子に登ると全てが拾い上げられる。

 高い位置にあるものを取る時も、このイスを二つ重ねると、ちょっちょいと取り出せる。

 野球部息子は、泥まみれのユニフォームをもみ洗いする時、この椅子に座ってがっつり洗い上げる

 おのおの用途に合わせて使える万能なイス

 この椅子を創ったのは、息子たちの保育園の園長先生の旦那様。0歳から6年通った子だけが卒園時にもらえる”特別な椅子”

 

地域で育ててくれた人

  

 息子が通った保育園は子どもを伸び伸びと地域全体で育てるを徹底

 保育料は良心的なのに、芋ほりからウォーキング沖縄縦断、ガジュマル登り放題、親なし離島キャンプ…etc…自然体験活動のオンパレード

 保育方針と職員の武骨な気質?に惚れこみ、お願いしまくり、やっと入園。

 園には放課後児童クラブ(学童)が併設されているので、息子たちは小学校6年生まで、12年間通った

 

 

 学童の中心は園長先生旦那さま。小柄で細いが、100歳まで飛び跳ねていそうなくらい俊敏に動く。まるで江戸時代の忍者

 真っ黒に日焼けした肌にいたずら好きな笑顔。やんちゃさが残っているから、子どもは吸い付けられる。子どもと同じ目線で遊ぶ才能に長けているのだ

  

 相棒は、男っぽいキレイどころ指導員。子どもに強く保護者に優しい。子育てに悩んだらすぐ相談したし、いきつけの居酒屋が同じなのも心強かった。

 我が家の子育てで自然体験は、園と学童の行事がほとんど。太陽と月の下で自然を語る園長旦那さまと過ごすと、子どもの頃の”無心“な感情が戻ってきた。

 夫は、園長旦那さまの生き方が好きで、いつしか、「家は買わなくてもいいから、キャンピングカーに住もう。キャンプしながら日本中を回ろう」と言いはじめた

 「はっ、運転するのはどうせ私でしょ」と文句言いながらもネットでキャンピングカー検索の時間を楽しんだ

  

 夕方、園の前を通ると、ガレージでなにかを作っている園長先生旦那さま。それを見ると、またまたDIYに手を出す夫でもあった

 

メルカリで売ったらいくら?

 夫が逝く3カ月前、園長旦那さまが、協力願いの文書をもって我が家を訪問した。

 コロナ禍で学校閉鎖し家にいた息子たちと久しぶりに顔を合わす。動くのがキツソウな夫も、椅子から腰をあげ、玄関口まで歩いてきた

 100キロのがっつり体格の夫が、半分になり、壁に寄りかかる姿をみて、何もふれず、いつものやんちゃな笑顔で帰っていった

 

 夫の告別式で、多くの同僚や友人が見送るなかに、園長先生旦那さまとキレイどころ指導員が、ずっと私たち家族を見守っていた

 地域で、子どもを育て、私と夫を親にしてくれた人

 「こうゆうさんのいす」に登るたび、親になったプロセスをかみしめる。

 それにしてもこのいすは凄すぎる。一生の宝、手放せない。仮に借金地獄に陥り、メルカリに出品することになったら、値段は…数百万円!?

 いや、メルカリじゃない! バンクシーに匹敵。だからイギリスでオークションにかけなくては

お勧めこ豚
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