第23話【残り65日】最後の家族ドライブは金武町

ガンと家族の6年

金武町までの家族旅行

 息子が中学生になり、家族で出かけるのがめっきり少なくなっていた。
 
 体力が落ちていく夫をみながら「週末は少しでも時間をみつけて、できるだけお父さんと一緒に外出しようと提案した


 その日は金武町にあるタコライス発祥の店『キングタコス』に行くことにした


 金武町の面積は60%が米軍基地で、訓練時は道路沿いからも銃弾の音がパンパンと鳴り響く。本土復帰までは基地関係で経済が潤い、同時に犯罪も多発したところだ。
  
 町にある米軍基地キャンプ・ハンセンのゲート向かいの通りは、かつての繁華街で、その通りを突き抜きぬけたら『キングタコス』がある

 仕事で関わった金武町民が「大盛りのタコライスが一般的に人気だけど、『キングタコス』のオススメはなんといってもチキンライスですよ」と教えくれた、それが耳からはなれな~い

 
 「さぁ、家族で金武町へ食べに行こう Let’s go!

 久しぶりの家族ドライブ。那覇から金武町まで、右手にみえる海を眺めながら東海岸をゆっくり北上。「懐かしいね」と夫婦二人で盛り上がる

若かりし頃に通った金武町

 20代の若かりし頃、私は米軍関係の仕事をしていた。当時、金武町の県道104号という道路を超えて米軍は砲弾訓練をやっていたので、私は金武町で仕事の調整をすることが多かった
 

 彼は、金武町幹部の汚職事件で、泊りがけか朝がけか、よく分からないが、取材で金武町に通っていた。
 
「先輩の車の後部座席にでんと座っているから、ライバル社に社長を載せてると勘違いされてさ」と当時のことを思い出して、二人で笑いあった。

 

 後部座席に座る息子たちには、父親が外で働いているイメージがほとんどない。
 
 小2の頃にガンになり退職している父親は、台所に立っているイメージはあるものの、外で働いているイメージはピンとこなかった

アナタが新聞記者だったなんて、子ども達には想像できないだろうね」「だろうな」と言いながら、夫婦での思い出話は尽きなかった


 

父とキングタコスと金武町

 『キングタコス』でチキンライスを注文し、コロナ禍で店内飲食はできないので、駐車場に止めている車で食べることにした。

 店と駐車場、2ブロックほどの距離。テニス部息子が「お父さんを待ってあげよう、ずっと後ろだよ」と私の足を止めた


 振り返ると、かなり離れている。彼は、ゆっくり歩き、歩いてはひと休みし、また歩きはじめる

 「お父さん、ゆっくりしか歩けなくなったね」と息子たちはお父さんをみつめながら、追いつくのを待った。
 

 米軍基地中心の経済ではなくなり、基地への依存度が減って廃れた金武町の繁華街。その繁華街を背景に一歩一歩ふみしめるように歩く彼を、私はボンヤリと見つめた


 毎週出かけようといった家族の遠出ドライブは、結局、その日が最後となった


 

 

 私にとって”金武町”といえば、精力的に働いていた彼が重なる場所。

 息子たちは”金武町”にどんな父親を重ねるだろう。廃れた歓楽街を歩いた父か、チキンライスを少ししか食べることができなかった父か…

 時がたったら聞いてみよう