第66話 糸満ハーレーと50代ガールズBAR①

ガンと家族の6年

老舗の同級生の飲み屋

 漁業の町、糸満の漁港近くで私は生まれ育った。

 その漁港向かいにある4階建てビルに、私の幼なじみが経営するスナックがある。

 食べるスナックではなく、現代の表現でいうとガールズバー。

 

 開店して30年カウンターにいる女性は同級生だから50代、ガールズバーと呼んでいいのか‥‥迷う

 

 開業した時は同級生5名でスタート。そのうち2人ははお客さんと結婚して仕事を辞め、残った3人で店を切り盛りしている。 

 店の代表ママは、10代で結婚出産、20代で離婚を経験しこの業界を知っている友人。

 長身でスレンダーな友人は店の看板(娘?)。ルックスとは似合わない天然ボケとガハハ笑いが人気。

 店を仕切っているのは、経理能力のある実務家の友人。

 3人とも酒には飲まれても、金勘定には決して飲まれない。 

 

 飲み放題プランが流行ろうが、独自の価格設定を維持する。1本千円の瓶ビールを「値段が高い」と言われようものなら「じゃ、来ないで」と返す。 

 

 相席して「私のビールとっていい?」と聞いて「水にしろ」と答えたお客さんには、笑い飛ばして無視する。 

 家庭の事情や友達の帰省状況によって、営業時間は変わる。特に法事や旧暦行事は営業していないから要注意だ。 

やみつきの魅力

 このスタイルの営業だから、お客さんも、ただの高齢者が来るわけではない。

 

 地元で票を集める市議会議員(はどこにでもいるが)、釣りたての魚を土産に持ってくる無愛想な漁師

 「行くとこないから仕方ない」とぼやきながらやってくる同級生のおじさん威勢のいい沖縄女性が面白いとバカンスで来る県外の方。 

 しかも、みな、定期的にやってくる。 

 お客さんを相手するカウンター嬢も変わっている。経営者の3人だけではない。 、

 沖縄に帰省した女友達が、なつか話ちょっことたち寄り、隣の客と話して長居する。 

 子育て終わった同級生は、ノンアル持ち込みお喋りしにやってくる。

 ここは公民館か、とツッコミたくなるが、隣のお客さんも相手するから、さながらカウンターガール(おばさま)? 

 しまいには誰が客か、店の人か、区別ができない。最初はドギマギする店だが、しばらくいるとクセになる楽しさ(たぶん)

 

 

 店を開業する時、私も誘われたが「公務員だからムリ」と断った。その代わりに店の名前を考えた。

 She’s」 という名のBar

 人格ある女性の集合体、という造語でネーミングしたが、まさか30年続くとは‥‥

 

 

 夫は、この糸満女性のたくましさに、いつも感動した。「お前の強さのもとがよく分かる」とうなづいていた。

 私に惚れたというより、私のバックボーンのたくましさに惚れたかもしれない。

 

  

 She`s 人格ある女性の集合体。私もその一人。立ち寄ると原点に戻れる場所。

 でも”場”ではなく、きっと人。魅力ある人が集まり、人に惹きつけられて来る。

 

 あれれ、糸満の老舗ガールズバーを小説みたいに書いた。けど、通っている人からすると「ない、ない、そんな店じゃない」ときっと笑う。

 それでもいいじゃない。

 糸満の”50代ガールズBar”なんて、響きだけで楽しくなる。この店は、こうして多くの人に楽しさを与えているのだから。