老舗の同級生の飲み屋
漁業の町、糸満の漁港近くで私は生まれ育った。
その漁港向かいにある4階建てビルに、私の幼なじみが経営するスナックがある。
食べるスナックではなく、現代の表現でいうとガールズバー。
開店して30年。カウンターにいる女性は同級生だから50代、ガールズバーと呼んでいいのか‥‥迷う

開業した時は同級生5名でスタート。そのうち2人ははお客さんと結婚して仕事を辞め、残った3人で店を切り盛りしている。
店の代表ママは、10代で結婚出産、20代で離婚を経験しこの業界を知っている友人。
長身でスレンダーな友人は店の看板(娘?)。ルックスとは似合わない天然ボケとガハハ笑いが人気。
店を仕切っているのは、経理能力のある実務家の友人。
3人とも酒には飲まれても、金勘定には決して飲まれない。
飲み放題プランが流行ろうが、独自の価格設定を維持する。1本千円の瓶ビールを「値段が高い」と言われようものなら「じゃ、来ないで」と返す。
相席して「私のビールとっていい?」と聞いて「水にしろ」と答えたお客さんには、笑い飛ばして無視する。
家庭の事情や友達の帰省状況によって、営業時間は変わる。特に、法事や旧暦行事は営業していないから要注意だ。
やみつきの魅力
このスタイルの営業だから、お客さんも、ただの高齢者が来るわけではない。
地元で票を集める市議会議員(はどこにでもいるが)、釣りたての魚を土産に持ってくる無愛想な漁師
「行くとこないから仕方ない」とぼやきながらやってくる同級生のおじさん、威勢のいい沖縄女性が面白いとバカンスで来る県外の方。
しかも、みな、定期的にやってくる。
お客さんを相手するカウンター嬢も変わっている。経営者の3人だけではない。 、
沖縄に帰省した女友達が、なつか話でちょっことたち寄り、隣の客と話して長居する。
子育て終わった同級生は、ノンアル持ち込みお喋りしにやってくる。
ここは公民館か、とツッコミたくなるが、隣のお客さんも相手するから、さながらカウンターガール(おばさま)?
しまいには誰が客か、店の人か、区別ができない。最初はドギマギする店だが、しばらくいるとクセになる楽しさ(たぶん)
店を開業する時、私も誘われたが「公務員だからムリ」と断った。その代わりに店の名前を考えた。
「She’s」 という名のBar
人格ある女性の集合体、という造語でネーミングしたが、まさか30年続くとは‥‥
夫は、この糸満女性のたくましさに、いつも感動した。「お前の強さのもとがよく分かる」とうなづいていた。
私に惚れたというより、私のバックボーンのたくましさに惚れたかもしれない。
She`s 人格ある女性の集合体。私もその一人。立ち寄ると原点に戻れる場所。
でも”場”ではなく、きっと人。魅力ある人が集まり、人に惹きつけられて来る。

あれれ、糸満の老舗ガールズバーを小説みたいに書いた。けど、通っている人からすると「ない、ない、そんな店じゃない」ときっと笑う。
それでもいいじゃない。
糸満の”50代ガールズBar”なんて、響きだけで楽しくなる。この店は、こうして多くの人に楽しさを与えているのだから。