第11話 看護師しか伝えてくれないメッセージ

看護師のアナタへ

看護師が切り出した本音


 がん患者をサポートする、その看護師に初めて会ったのは、2度目のガン転移が分かり、オプシーボという点滴治療を始めた時だった。


 
 効果は非常に高い治療薬だが2割の人にしか効かない、最後の治療法のようなものだった


 オプシーボの治療は2週間に1回。朝、一緒に病院へ行き、血液や尿検査をして診察までの2時間を夫とお喋りしながら、担当医との診察を待ち、その後、私は仕事に戻り、夕方夫を迎える


 
 夫は一日中病院にいて長い時間拘束されるが、看護師さん達と話すのが楽しそうだった。迎えた車中では、その日のお喋りを嬉しそうに再現してくれた。
 特によく話す看護師さんがいるということは聞いていた…


 
 
 5月のある日、ある看護師さんが「奥さんですか」と話しかけてきた。自己紹介しながら、会話の中で私が介護できる環境(仕事)なのかをさりげなく聞いてきた。

 6月、夫を迎えた際に、その看護師と二人だけになった時「人によりますが、最悪の場合、半年の命という状況も想定しないといけないこともある、休職とか考えたほういいです」と切り出してきた

 「覚悟はしています」と答えたものの、本音は1年以上はもつと思った。当初ステージ4の診断から6年も生きているのだから、今回だってもっと生きるはずだ、と思った。


 7月に入ると「お仕事は休職とかできますか」と聞いてきたので「近いうち休職するつもり」と返答したら「そろそろ具体的に考えたほうがいいですよ」と踏み込んできた。


 
 夫の体力は落ちているが散歩はできるからまだ大丈夫では…。でも看護師がそう言うなら、そろそろ休職スケジュールを進めないといけないな、と思った。



 
 7月下旬、2件のホスピス病棟を見学したころ、夫が離席している時にその看護師が私の目をみてきっぱりと言った。「今、休職しないと、奥さんは、きっと後悔すると思います」
 
 「夫の命って、そこまで差し迫っているんですか」と茫然とした


やっと分かった夫の死期


 8月11日の明け方、認知機能がおかしくなり、病院にかけこんだ。

 入院手続きしている時、その看護師に「今日から仕事休んで旦那さんに付き添って下さい」と言われた。

 私は頷きながらも「ホスピス病棟に転院したとしても、コロナ禍で面会制限があるので、自宅に戻るまでこの病院でいいですか」と聞いてみた。
 

 すると、私の目をじっとみつめて静かに言った「急変したら1週間もたないかもしれません。最後をこの病院で終えるのか、ホスピスがいいかは、ご家族の選択です」

 やっと事の重大さが伝わった。


 

せめて心は救われた

 

 1週間後、彼は逝った

 ホスピスに転院し、もうろうとしていたが、夫は4日だけ意識を取り戻した


 夫の命の限界に、なぜ、もっと早く気付かなかったか、後悔の波は何度も私を襲ってくる。

 それでも、もし、あの時、看護師の彼女からの言葉がなかったら、休職も転院も決意しなかった。そして、彼の死に対する心の準備もできなかった。
 

 後悔することは沢山ある。けれど、”最後の生”を共有することはできた。

 


 「命を救うのは医者だけど、患者の心を救うのは看護師の仕事ですよ15年前のある看護師の言葉がよぎる
 


 ホスピスに向かう私たち家族を、彼女は最後まで見送ってくれた。彼女と話をする自信はまだない。心の整理はまだできていない。


 ただ一つ言えることは、看護師の彼女は、夫の心だけでなく、私たち家族の心を救ってくれた