第27話【残り2カ月】独りで子育てできるほど強くないよ

残り2カ月+α
nini kvaratskheliaによるPixabayからの画像

まだまだ寺内貫太郎一家

 夫が逝って1年。親子三人の家族で仲よくしようと思っているのに、また息子とケンカしてしまった。


 発端は兄弟げんか。ケンカをとめているうちに…息子のどちらかと私が言いあになり、大喧嘩に発展する。

夫に似て語彙力が豊富なテニス部息子は、”傷つく系の言葉”で攻めてくる。野球部息子は”乱暴系な言葉”で攻めてくる。

どちらの言葉にもカッとなり、大声を張り上げ倍返しの言葉で応酬する私は、母親とは思えない醜態となる。

カチンときた私は大人げなく応戦してしまう

 夫と息子たちのぶつかりあいも、そりゃあ激しかった。

我が家のケンカぶりは、アパートの住人に筒抜けらしく、ちょっとした有名な一家になっていた。
  
下の階に住んでいるママ友が、「昨日も(家族ゲンカの)元気な声が聞こえたよ」と笑いながら話しかける。

その家の息子の同級生は、我が家のケンカが始まると、ベランダに身を乗り出して楽しそうに聞いいてるそう。



 私が「そうなの、お父さんと息子たちのケンカがひどくてさ」と言うと、ママ友が「昨日はお母さんの元気な声も聞こえたよ」と。


 ありゃりゃ、そうか。とあせったこともよくあった。

お前なら一人で子育てできるよ

 

 夫の体力が落ちてきた6月頃、私と息子が大喧嘩になったことがある、

 

「その言い方、絶対に許さないからね」となかば取っ組み合いになり、お互い険悪な雰囲気が翌日に持ち越され、朝、落ち込んで出勤した

その日、帰宅すると息子のほうから謝ってきた。予想してなかっただけに嬉しかった
 
私が出勤したあと、夫は、息子にゆっくりと話をしたら、本人も悪いと認めたので「お母さんにまず謝ったらいい」とアドバイスした。



日増しに体力が落ち元気のない夫だったが、アドバイスが上手くいったのが嬉しそうに照れ笑いしていた。 


照れ笑いする彼の表情をみていると、閉じ込めていた不安がこみ上げた



「あなたがいなくなったら、私だけで、子どもを育てる自信ないよ」と弱音を吐いてしまった
 

彼は私の目を見て、穏やかな口調で笑った

「大丈夫。お前は一人で十分育てていけるよ」


 

夫は私をよく知っていた。大学からずっと一緒で、追い込まれたら強くなる私をずっと見ていた。

夫の体調が悪くなり、家事ができなくなった時にしきりに謝った。私が、治療の付き添いと仕事に加え、家事までできるか心配していた。

夫が新聞記者だった時期は”ほぼシングルマザー”だった私としては、もとに戻っただけのことだったので、なんとかできた

仕事、家事、息子たち部活動の保護者役員までやることになり、どうこなしているかよくわらかなかったが、ひとまず日々をこなしていた



そんな私を見て、夫は、自分がいなくなっても大丈夫と確信したのか、「お前は大丈夫だよ」と笑った


でも、こなせている理由は明らかだった。こなせたのは夫がいるから。やつあたりする夫がいて、相談することもできて、何より、そばにいてくれるのが心強いから。

だから「アナタがいなくなったら、私には無理、できるわけがない、独りで、できるわけがない」と、私はボロボロ泣いた

「大丈夫」といわれたことは、突き放されたようで寂しかった。私は本当は強くないんだよ、と叫びたかった。

 

彼が逝って一年。今、こうして私は子育てをしている

自信はないが、ひとまずやれている。愚痴ったり半べそかいたら、友人や職場の同僚がさりげなくアドバイスしてくれる

気持ちはまだ独りだが、実際は、独りではない

相変わらず、息子たちとの喧嘩は続く。「私は強くないよ」と思ったのに、今、アナタが言ったように”大丈夫”な時が流れている