那覇でこんなに美味しいステーキ!?
沖縄の官公庁が集まっている那覇市のオフィス街を少しだけはずれた路地にある小さなステーキ・ハウス
両脇をホテルやビルがデンと構えているので、つい通り過ぎてしまうが、予約なしでは入ることができない穴場のレストラン
その店を知ったのは、夫が逝って2か月後
仏壇の前で毎夜落ち込む私を見て、シンガポール友人が「ステーキ食べに行くよ! すっごく美味しいとこ見つけた、ランチが最高! さぁ、ディナーしてくるよ」
引きずられるように店に入ると、ん~、いい匂い。ん~、久しぶり食欲アップモードに

食べてみると……
ん~、ウマい、ステーキがウマい!
ステーキも美味しいが、ワインのテイスティングがこれまた良い。1本だけ飲むつもりが、シンガポール友人と二人でさらっと2本を飲みほした
接客してくれた女性にステーキとワインの美味しさを伝えた
接客してくれた女性はオーナーだった。
連れ合いを亡くしたオーナー
お酒が入っていた私はポロリとこぼした「主人が少し前に亡くなって…落ち込んでたけど…美味しいもの食べるって、やぱりいいですね」
するとオーナー女性は優しそうに微笑んで話を切り出した「この店は主人と私でやっていたんだけどね、私も主人が突然亡くなってね」と
「すごく辛くて、どうしていいか分からなくて、店を辞めようと思ったのよ」と続けた
「友人やお客さんが、こんなに美味しいのにもったいない、続けなさい、励まされて、ひとまずやってみようとなんとか続けて、何年か頑張ったの」
調理場はちらっと見て「今は息子がこの店を継いでシェフしているのよ。だから、あなたも大丈夫よ」と頷いた
オーナーの言葉に頷きながら、涙が湧き出てくる。なぐさめるように肩を包み込んでくれる手の温かさに、涙が止まらない
泣きながら、ワインをまた1本を追加注文

「あの方もご主人を亡くされているんだよ」と後ろの席に1人座っている60代の女性を紹介された。
関西から旅行で来た婦人は、数年前にご主人を亡くし、ふさぎこんでいた日々からやっと動いてみようという気になり、一緒に旅した沖縄を一人で巡っているという。
「夫がいなくなったときは、もう生きていくことはできないと思ったのに、こうして、沖縄を旅行できている。寂しくないといえば嘘になるけど、元気になっている。だから、あなたも大丈夫」
また頷きながら、涙がとめどなく流れた。ワインなのか鼻水なのかがもう味が分からなくなっていた
「大丈夫だからね」と私の肩を寄せ、彼女も泣いた。そばで見ていたオーナーさんも涙ぐむ。
シンガポール友人は、夫を亡くした3人女性が泣く姿に唖然。ワインを飲みながら笑っていた。
江戸っ子オーナーの温かさ
どれくらい食べたか、飲んだか覚えてない時間がたった。もちろん客は私たちだけ。キッチンにも誰もいない。帰ろうと財布を取り出した
すると、オーナーは威勢よく叫んだ
「今日はおごり! 私のおごりだから、ね。その代わり、今度は笑顔を見せに来てよ~」
足がふらつきながらも、吐きそうになりながらも、江戸っ子のようなオーナーの口調に、人生ってすてたもんじゃないねぇ、と江戸っ子のように手を振ったことだけは覚えている

喪失感とやらを和らげるのは時間。その過程で出会う人たちとの“小さな物語”は、時間という横軸に深みを与える。
横軸の目盛りは「時間」で縦軸には「悲しみ・辛さ度」とすると、100%から出発した喪失曲線は、誰かとの出会いの点をへてうねりながら、ゆるやかにおちていく
ふりかえると、私の喪失曲線は「沖縄で一番美味しく温かいステーキ屋さん」から下降し始めた
