育児ノイローゼを救った子育て師匠
夫の一年忌に2冊の本を持って来てくれた人がいる。癌をわずらった妹さんを3月に看取ったばかりのその人は私の子育ての師匠のような存在
数年ぶりに顔をあわせてじっくり話していると、出会った当時の、子育てに必死だった”嵐のような日々”を思い出した。
子育て師匠は、当時、双子を出産し4人を育てる母。同じ悩みを共有するため、(LINEすらない時代に)双子ママのコミュニケーションツールを作ろうと呼び掛けてくれた。
「身内を頼る子育てはダメ。自分も家族も追い込むから気を付けて。利用できる公的制度をうんと使うんだよ。特に沖縄の働く女性は、身内頼みで制度のことをよく知らない」

40歳で双子を産んだ私にとって子育ては未知の分野
けれど、母親になっている人を見渡せば、みなお母さんしてるじゃない。だから、赤ちゃんを生んだら自然に母親になれる!
…と思いきや、えっ、産んだら自然に母親になれないの? なんと自然にできることは何もなかった
授乳、ミルクの作り方、おむつ替え、お風呂、子育ては、教えてもらわなければ何もできないことに驚いた。
覚えたかと思えば、行きつく暇もなく一連の作業に追われた。子育て作業に加え、身内は「こうすべき、ああすべき」と子育て論に言いたい放題。
出産後のいらだちに”子育て押しつけ論”が追いうちをかける

育児ノイローゼもどきになりかけた時、子育て師匠の彼女が現れた。
子育ての相談ができる助産師や相談機関を紹介し、子連れカフェに連れていき、預かり保育できる施設や支援制度、薬を多用しない自然療法まで教えてくれた。
母親を亡くし頼る人が少ない師匠の子育て経験は、初心者ママには勉強になることばかりで、怒濤の子育て期を乗り越えることができた
子育て怒涛期を過ぎると、いつのまにか、ほとんど顔を合わすことなく時間がたっていた
がん治療放棄を尊重する選択
子育て師匠の彼女は、夫の一年忌法要で、妹さんのことを話してくれた。
妹さんは、西洋医学の治療に見切りをつけていた、だから、家族は妹さんの意思を尊重したという。
終末期がん治療になると、西洋医学以外の治療法を試みる人が多い。例えば東洋医学だったり、食事や薬草、精神的療法のアプローチなど
ただ、西洋医学と一線を画す決断は勇気がいる。
私たちもいろいろ挑戦はしたが、西洋医学の治療を断ち切る信念も勇気もなかった

選択した先にある結末、大切な人の死を覚悟するのは辛かっただろう
子育て師匠の彼女は、妹さんと悔いのない時間を過ごすことに努めた、と言っていた。
柔らかい物腰だが軸足のぶれない強い人だと思った。そして「一緒に乗り越えこうね」と言ってくれた
がん治療に100%の正解はない。もし夫が西洋医学の治療放棄という選択をしていたら、私は彼の意思を尊重できたのだろうか。
持ってきてくれた本の1冊は「千の風になって」の日本語詩・作曲家の短編本。
千の風にのって
私のお墓の前で 泣かないで下さい
そこに私はいません 眠ってなんかいません
千の風に 千の風になって
この大きな空を 吹きわたっています
秋には光になって 畑にふりそそぐ
冬はダイヤのように きらめく雪になるc
朝は鳥になって あなたを目覚めさせる
夜ほ星になって あなたを見守る
私のお墓の前で 泣かないでください
そこに私はいません 死んでなんかいません
千の風に、千の風になって
この大きな空を 吹きわたっています

ページをめくりながら、彼女の思いと重なり、涙が止まらなかった。
アナタは風になっているのだろうか。”大地の息吹となって、地球の呼吸なって風になっている”のだろうか
沖縄だから、さすがに雪になることはないだろうけど、光になり、鳥になり、星になり、私のそばにいてくれるのなら、「千の風になったアナタ」を感じてみたい