第66話 糸満ハーレーと50代ガールズBar②

ガンと家族の6年

糸満のハーレー

 旧暦5月4日はユッカヌヒー、沖縄各地の漁業の町では豊業を祈ってハーリー行事がある。豊漁と航海の安全を願う町の一大イベント。

 サバニ(小さな漁船)に複数人が乗り込み、チームで海上ゴールを競う。

 私が生まれ育った漁業の町糸満では、ハーリーとは呼ばずハーレー(バイクのハーレーダビッドソンではない)

 地域では、参加者に合わせ、行事を日曜祝祭日に変更すルことが多いが、漁業の町糸満の漁師は全て旧暦カウント

 旧暦5月4日が平日であれば、地元小中学校は休みになる。

 レース場となる糸満漁港の周囲には、応援するおばぁのカチャーシー指笛が鳴り響き、町挙げてのお祭り騒ぎ。 

 いつも飲んだくれているオジサン、不良で学校に来ない同級生も、この日ばかりは勇壮な漕ぎ手となる。 

 見所はランチタイムに行われるアヒル採り競争。何十羽のアヒルを海に放ち、観客が海に飛び込みアヒルを捕まえる。  

  家族みんなで観戦party

 20代半ばから実家をでた私は、地元行事の糸満ハーレーを観戦しなかった。

 若い頃は田舎特有の人間関係にうんざりするし、見えない未来への閉塞感は辛い。
 
 狭い地域に絡めとられた自分を取り戻そうと頑張ってきただけに、一旦離れた場所で暮らすと行事で戻るの億劫だった

が、主夫になった夫は「平日の糸満ハーレーが観戦できる」と大喜び。 

 ツインズも学校を休めるなら行きたいt、と、家族で観戦することになった。
 

 観戦場所は漁港目の前にあるアパート5階屋上。そこは、お酒を飲みながらサバニで競うハーレー全体が見える特等席。

 近くにはあの50代ガールズバーだからバー関係者の家族と親戚が一同に集まり、ごちそうが並べられる。 

 バー常連の釣りたてマグロが毎年差し入れ、特上のつまみにして勇壮な競技を楽しむ。

 

 夫は、このビル屋上のハーレー観戦の魅力に数秒でとりつかれた。

   息子たちは「アヒル採り競争」に参加したいと漁港に駆け寄る。かつて女性は参加できなかったが、今では誰でも飛び込める。

 野球部息子は水深3mに飛び込み、アヒルを捕まえようと果敢に挑戦。スイミング教室に通わせなかったのに、いつの間に泳げるようになったのだろうか。

 もう一人の息子は飛び込みなしで近くではしゃいでいる。

 

 子どもの成長みつつ、地域の芸能と“地元感覚”が織りなす人間模様。
 いつの間にか私も、糸満という地域で逞しく育った自分を重ね合わせる。

 糸満方言が飛び交いながら過ごす風景を、夫は「映画よりも面白い」と心底、楽しんだ。

 

 夫が亡くなって3年。ガールズバーの親友にユッカヌヒーと気づかずにメッセージを送った。

 「今日はハーレーでバタバタ。酔っ払ってるから明日ね」との返信。

 「今年もたくさん来たよ。朝9時からビール、昼はんなで飲んで観戦。来年は来てよ」のメッセージも追加。

 

 屋上からの糸満ハーレーLIVE。夫が生きていた時のあの時間が目の前に広がる。

 

 生まれ育った場所ですら夫の思い出で占拠。

 来年のハーレーは行けたらいいな。思い出に潰されずに、行けたらいいなぁ