こそあど言葉で十分
拝啓、天国?にいる旦那様
前回、優しさ通知表をお願いしましたが、今回は別の通知表をお願いします。

第41話の通知表シリーズ
貴方も知っているとおり、私は糸満という小さな町で生まれ育ちました。
小さなコミュニテイですから、うっとおしいくらい密な人間関係でしたが、田舎のよさがある商店街で育ち、会話は全て「こそあど言葉」でした。
「これとって、それが〜でさ、あれが〜だったから」こそあど言葉は、具体的に表現しなくても感情が伝えられる魔法の言葉です。
「こそあど」に加え「だからね〜」の”だからワード”を加えると、誰とでもコミュニケーションできます。
この限られた言葉で22歳まで過ごし、大学入学してまず驚いたのは、同じ年頃の子の豊富な語彙力でした。
もちろん、理解力と表出(表現)力は違うので、理解はできました。が、発言する時は、いつも、しどろもどろになる私でした。
それでも深く考えることなく「大学ってすごい人が集まるなぁ」くらいで卒業しました。
言葉の試練がやってきた
試練がやってきたのは、あなたと付き合ってからです。
夕食で夜景を見ながらいい気分になった時、私の言葉にいちいち突っ込んできましたよね。
「これってどれよ?」「そういうことって、どういうこと?」「あんな人ってどんな人?」「主語がないから話がわからない」「目的語は何?」と追加で確認。
私は腹がたちました。そこで、大爆発の末に言いました。
「いい加減にして。話したいのに気分が半減。会うのも嫌になる、適当に聞いて流せばいいじゃない。話す時間を楽しむことはできないの」
とても怒ったことを覚えてますか。
あなたはしばし沈黙しました。そして言いました。
「一緒に時間を過ごしているのに適当な相槌は打てない。それに君にはきちんとした言葉を話して欲しい」
「君の感性や考えはいいのに、語彙力で損している。自分が愛した人が馬鹿に見られることも、馬鹿を受容している君の態度も許せない」
あの言葉は衝撃的でした。馬鹿を連発されたおかげで、持ち前の勝気さに火が付きました。

結婚後も続く言語能力確認作業にはうんざりでしたが、「これ。どれ・それ・あれ」を連発しないよう努力しました。
おかげで、私は担当する分野で講演をするくらいはできるようになりました。自分で言うのも変ですが、よくここまで成長したと思っています。
これもそれも、あなたが、じっとり、ねっとり、確認作業したおかげです。
私が一度離婚を切り出した時「あなたから語彙力を十分学んだ。これ以上学ぶことはない」と切り出したときを覚えていますか。
貴方は「で~じやっさぁ」と驚き「いや、まだ学ぶことはある」と居直りましたね。狼狽しかけたあなたを見て、内心「勝った」と優越感を感じました。

そして、今、こうしてブログを書いています。
これも、それも、どれも、貴方が辛抱強く教えてくれた表現する力が、今、私のものとして動き出しているからです。
50代で花咲いた表現力は遅咲きですが「言語能力を評価した通知表」を貴方から頂きたいです。
もう天国にいるのですから、甘く寛大な評価でお願いします。
敬具