第51話 ウチナータイムからの脱却

夫婦STORY

ウチナータイムの私

 コロナ禍が少し落ち着いたので、研修旅行と称し、久しぶりに遠出を決行し宮古島へ行くことになった。

 友人から、那覇空港での待ち合わせは、出発時刻の2時間前が指定された。
 「県内の離島に行くのに2時間前の待ち合わせ? えっ、早すぎるよ」とぼやいた。

 友人はきっばり「2時間前に約束したら、あなたは1時間前には到着するでしよ。だから、その時間でいい」と。

 まっ、認めたくはないが、私は典型的な”うちなータイム”と言われている。……しかたないと、納得するしかなかった

 

夫が空港に託した夢

 旅行へ出発する時の空港は最高だ。

 旅の展開を予想しながら飲むビールの旨さはこのうえない。ウキウキした気分が空港ラウンジで一気に上昇気流。

 ……のはずなのだが、私はいつも空港到着がギリギリだったので、夫は旅行のたびにイラついた。家の玄関でずっと私を待っていた。

 「やることがたくさんあるの。子ども連れならその支度、夫婦だけなら子ども達の学校や食事の用意、預け先へのお願いごと、仕事も片づけなきゃいけない」

 「あなたとは違うんだから」と逆ギレするのかお決まりのコースだった

 

 

 夫はやがてイラついくのをやめ、空に願いをかける作戦にでた。

 「俺の夢は…余裕持って空港に到着すること。離陸する飛行機を眺めながら…ゆっくりビールを飲みたい」「生きているうちに一度でいいから…」と言うようになった。

 友人たちは夫に「じゃ、まだ死ねないね」とか、「旦那様が死ねないように、わざと空港にギリギリにしているんだよ」とかばっているのかいないのか、よく分からない言葉をかけてくれた。

空港に早く到着しても涙

 時間ギリギリ到着は、夫になら逆ギレできたが、他人である友人達にはそうはいかない。相手は一気に責めてくる。

 だから、その日、頑張って1時間前に空港に到着

 常に上から目線の友人は「やればできるじゃん」と褒めてくれた。

 早く到着したといっても、友人たちのなかで一番遅かったので、罰ゲームとして私は宮古島でのドライバーに割り当てられた。
 ”空港でのビール”という極上を味わうことなく、友人らの飲む姿を横目でみていた。

 夫と一緒のシーンがよぎる。那覇空港に余裕持って到着したことなかったから、那覇空港ラウンジでゆっくりすることなど、ほぼなかった。

 「今なら少し余裕持って到着できてるよ、今なら出発前にラウンジで1~2杯飲めるよ、それが夢だって言っていたでしょ、叶う前に死ぬのはずるくない」と、悔しくなり涙が流れてきた。

 「あ~、ビールは飲めない。夫もいなくなった。あ~悔しい」と泣いている私を、友人たちは「はいはい、また始まった」と笑い飛ばした。

 

 夫がぼやいていた私の欠点は改善されつつある。

 できるなら、生きているうちに改善してあげたかった。けど、仕方ないから、ウチナータイムからの脱却を目指して頑張るしかない。