第41話 優しさ評価した通知表を下さい

夫婦STORY
ArtworkidsによるPixabayからの画像

優しさは思うのではなく表すもの 

拝啓

 あの世界にいる旦那様、貴方の愛しい妻は、先だってコロナ感染症陽性となり10日間療養しました

アナタの三回忌直前だったので、準備も中途半端なままそりゃあ大変でした

 

 回復したと思ったら、友人がコロナになりました。そこで、解熱剤や食料品を買って差し入れしてきました。2回も差し入れしたのですよ。

ふだん気が利かない私が、こんなことできるなんて、めずらしいと思いませんか

 

 これもそれもアナタが念仏のように言い続けたからです。

 「君は、本当は”優しい人”なんだ。でも、優しさを表現することが分からない優しさは具体性なんだよ」と。

 例えば、居酒屋で席に座る⇒友達がお皿と箸を出す⇒即座にアナタは「まず先に箸を出してごらん。優しさは思っているだけじゃダメなんだよ」と。

 そりゃぁ、ラっとすることもありました。が、友人のてまえ仕方がなく笑顔でごまかしました。

 「次こそは」と思っても、次回もつい自分だけ箸を持って先に食べる。そして、また「優しさは…」と言われる。一事が万事この調子でしたね。

 

自己中だと思っていた大学時代

 大学入学してから5年間、私たちは仲の良い友人でした。その後、付き合った時にアナタが言った言葉を昨日のことのように覚えてます。

君は、自己中な性格で、自分のことしか考えていない人だと、ずっと思っていた。けど、本当は優しいんだね」と。

 本当にショックでした。なんせ、5年も友人だったのですから、私をプラスに評価していると疑ったことなどありませんでしたから。  

 ところが、驚いたことに、大学時代の男友達のほとんどが、私のことを自己中と思っていたようです。結婚後にそれを知った時は、もう衝撃でした

 多くの人が言うなら「当たらずとも遠からず」だと割り切り、それから、アナタの言葉を聞き入れるようになりました。

 就職したら”優しさの表現が分からない”ことが少し理解できました。やはり、人間関係でちょこっと失敗し、上司に叱られたり、相手の立場で考えることが苦手”だと分かったのです。

 それでも、こうやって大人になれたんだから、直す必要ないんじゃない、とも思いました。

 

 今のご時世なら「発達障害の特性」で理解されることも、ほとんど「自己中」で片づけられた時代ですからね。

 

 大学の友人も、アナタと結婚するぐらいだから、「実は自己中ではないかも」となりました。なぜか、アナタとの結婚は私のイメージをプラスに変えたのです。

 そう、アナタは人一番他人に気を使い、友人を笑わそうと芸を披露し、就職すると、先輩や取材先を一番に考え行動していましたからね

 

私の優しさは何点ですか

 配慮の対象に家族が入っていないのは不本意でしたが、お蔭様で、優しさを具体的にどう表現したらいいか少しずつ習得できたようです

 酒屋の暖簾をくぐるとアナタの声が聞こえます。

 「箸はださないのか」「先にドアを開けてあげる」「ほら、優しさは具体性だよ」と。

 今回、友人がコロナになり”優しさの具体性”で行動しましたきっと、あなたは、天から見下ろし、私を褒めてくれているのではないでしょうか。

今回は何点ですか? 差し入れは気遣い点でプラスですよね。2日続けて差し入れしたのに、お酒飲みたくて1日さぼったのは、相手に期待させた分マイナスですかね??

 

 優しさの具体性をようやく表現できるようになった遅かりし50代妻は、アナタから、通知表をもらいたいです。

 愛すべき妻に、甘い点数の評価をください

                                        敬具