第2話 夫婦は縫い合わせたつぎはぎの服

夫婦STORY

死ねばいいのにと言った私


 彼が逝ってからやがて一年になる。

 毎日、振り返ってい後悔の日々。生きている時、もっとあれをやればよかった。あの時こうすればよかった、なんでやらなかったんだろう。
 マイナスの感情だけが駆け巡り、負のスパイラルだ。


 落ち込んで気力を失っている私をみて、親しい人はいちように驚く。


 ある友人が言った離婚したいって、会うたびにあんなに愚痴ってたよね」
 あっ、確かに… 離婚したくて仕方なかった

 あるママ友が言った「ケンカばかりで愛情なんて感じないって言ってたよね」
 あっ、確かに…よくケンカしたし、触られるのも嫌な時があった

 幼馴染が言った「は、好きな人ができた時もあったんじゃね」
 う~ん… それは…なきにしもあらず…



 極めつけは飲み友の一言「死ねばいいって言ってたこともあったのにね」
 えっ、それは覚えてない。 えっ、いつ?
 「ほら、居酒屋で、俺はどうせいつかは死ぬんだよって、酔って投げ捨てるようなものいいを聞いて、すごく怒って、じゃ、死ねばいいさ、って言ってたじゃない」

 えっ、そんなことまで、私は言っていたのか…

 確かにケンカばかりで、別居したのも1度や2度じゃない
 
 大学時代のゼミ仲間で、飲み友達、社会人になってから付き合い結婚した。
 6年以上の友達から結婚したのだから、さぞ気が合うかとおもいきや、夫は取材先や同僚と飲み歩き、毎日午前さま。私はB型の自分中心型。
 どちらも仕事優先だったから、そりゃぁすれ違いだらけ。

 結婚9年目に子どもができた時「これで心おきなく別れられる」とホッとした。
 ただ、離婚はいつでもできるから、目の前の子育てと仕事を頑張ろうと日々を過ごしていた。愛情はとうにないものだと思っていた。

 彼が癌になるまでは



 

 癌になっても喧嘩した。家事を担当した夫は、息子を叱っているところからケンカになり、小学生と真剣にぶつかっている姿を見て、今度は私とケンカになるのがお決まりだった。

 ケンカした分、二人だけの大切時間は確かにあった。

 時間をみつけてランチを食べ歩き、映画をみてドライブにでかけた。
 私の出張には必ず一緒のフライトチケットをとり、旅行も兼ねた。
 Youtube音楽を一緒に聴いて、仕事の愚痴やら育児のことを語った。

夫婦の関係は継ぎはぎの服



 夫婦って継ぎはぎ布で縫い合わせた服だと思う。
 ほころんだ部分ができたら、ちがう布で覆いかぶせてながら補っていく。
 
 パッチワークのように均整のとれた美しさはないけど、その時々に合わせた柄と大きさの布で縫い合わせていく服は世界で一つだけの服
 世界で一つだけの夫婦の形



 私たちの服、まだ仕上がっていなかったのに彼は逝ってしまった。
 
 彼と重ねた年月とあふれんばかりの想いは行き場を失い継ぎ足してきた布の重さでつぶれそう
 
 このままだと息ができなくなる…。だから書き綴ることにした。
 綴って、綴って、私たちが重ねた布を一枚一枚引きはがしてみよう

 どんな布を縫い合わせてきたか、確認しながらはがしていく。

 そうして剥がし終わったら、いつか心が軽くなるのかなぁ。