ブラックジョークと毒舌と…
新聞記者だから辛口というわけではなかった。毒舌、性格がブラックジョークそのものだった
80歳超える母親が電話をとらなければ「死んだのかな」と安否確認し、結婚報告受けたら「結婚のメリットはタダでできることだ」と祝い相手を怒らせた。
最初に入院した時も、同期の友人の”見舞金”をみて「生きているうちに香典ありがとうな」と返した
大学の友人も職場の同僚も、そんな彼の言動を楽しんでいた。
他人ならいいが、家族になると毒舌ぶりはカチンとくる

手術2日後にICUで人工呼吸器を外した直後、開口一番「あい、天国じゃないな」だった。
→「なわけ、ないでしょ」
切除したがん細胞を担当医から見せてもらったことを話すと「俺の食道食べたか」と聞く
→「そんな不健康な食道食えんでしょ、食べることできてもいらないけど」
手術が成功したことを知ると「俺の生命保険そうとうかけてるだろ、残念だったな」と皮肉る
→「20代から高血圧の薬飲んでいて高額な保険は無理でしょ。第一、そんなに太ってて自分の命が高いとでも思ってるの」
退院して自宅へ戻る時、助手席から運転を注意しては「ガンじゃなくて、交通事故で死ぬとこだった」
→「いっそ、私があなたをひこうか」
飲み友達は。私たち夫婦のやりとりが面白いと言うが、こっちとしては真剣に苛立つ。
胃の破裂で救急搬送
2020年3月土曜日、トイレで大量の血を吐き、救急搬送された。胃が破裂し血が逆流してあふれ、7時間にわたる止血手術が行われた。
彼は気分が悪くてトイレにかけこみ、買い物中の私に血をはいたと電話をしたが、危ないと判断して自分で救急車を呼んだのだ。
担当医から「多量の出血だったので、搬送があと30分遅れたら命は危なかったと思います」と言われ、ガンじゃなく、胃の破裂で死に直面するなんて…とゾッとした。
手術後、意識を取り戻した夫と面会したら、開口一番「今ごろ来るのか、相変わらず遅いな」だった。もう我慢の限界
「いい加減にしろ~、どれだけ心配したと思ってるのぉ~
ありがとうの一言ぐらい言えないのかぁ~」
もう知るか、とICUを出て行った
初めての謝罪
退院後から2カ月たった頃、また、食事に対して夫が文句を言った。
相変わらずのものいいにムッとした、怒ってもどうにもならないと、無言で席をたち、皿を洗っていた。
すると私に近寄り、「ごめんな。こんな言い方だな。俺はいつもこんな言い方をして人を傷つけるんだよな」
初めて聞いた謝りの言葉だった。

夫は、ブラックジョークが自分らしさだと思っていた。そして、みんなを楽しませようと頑張った。
でも相手がイラついた時は、あたふたしながらも、その場をとりつくろってさらに頑張った
実際、周りも楽しんだし、私も楽しかった。
下をうつむいて謝るの彼は似合わないなと思った。
むしろ、謝らないで欲しい、とさえ思ってしまった
夫のブラックジョークは、わじわじ~(=いらだつ)したけど、やっぱり、夫のいい所でもあった(悪い所でもあったが)
あの毒舌が、あのブラックジョークが、今はただ懐かしい…