第14話【残り3ヶ月】毒舌な夫の初めての謝罪

残り2カ月+α

ブラックジョークと毒舌と…

新聞記者だから辛口というわけではなかった。毒舌、性格がブラックジョークそのものだった

 80歳超える母親が電話をとらなければ死んだのかなと安否確認し、結婚報告受けたら「結婚のメリットはタダでできることだと祝い相手を怒らせた。

 最初に入院した時も、同期の友人の”見舞金”をみて「生きているうちに香典ありがとうな」と返した
 
 大学の友人も職場の同僚も、そんな彼の言動を楽しんでいた
 
 他人ならいいが、家族になると毒舌ぶりはカチンとくる

 手術2日後にICUで人工呼吸器を外した直後、開口一番「あい、天国じゃないな」だった。
「なわけ、ないでしょ」

 切除したがん細胞を担当医から見せてもらったことを話すと俺の食道食べたか」と聞く
「そんな不健康な食道食えんでしょ、食べることできてもいらないけど」

 手術が成功したことを知ると「俺の生命保険そうとうかけてるだろ、残念だったな」と皮肉る
「20代から高血圧の薬飲んでいて高額な保険は無理でしょ。第一、そんなに太ってて自分の命が高いとでも思ってるの」

 退院して自宅へ戻る時、助手席から運転を注意しては「ガンじゃなくて、交通事故で死ぬとこだった
 →「いっそ、私があなたをひこうか」

 飲み友達は。私たち夫婦のやりとりが面白いと言うが、こっちとしては真剣に苛立つ


胃の破裂で救急搬送

 2020年3月土曜日、トイレで大量の血を吐き、救急搬送された。胃が破裂し血が逆流してあふれ、7時間にわたる止血手術が行われた。
 
 彼は気分が悪くてトイレにかけこみ、買い物中の私に血をはいたと電話をしたが、危ないと判断して自分で救急車を呼んだのだ。
 
 担当医から「多量の出血だったので、搬送があと30分遅れたら命は危なかったと思います」と言われ、ガンじゃなく、胃の破裂で死に直面するなんて…とゾッとした。

 手術後、意識を取り戻した夫と面会したら、開口一番「今ごろ来るのか、相変わらず遅いな」だった。もう我慢の限界

いい加減にしろ~、どれだけ心配したと思ってるのぉ~
ありがとうの一言ぐらい言えないのかぁ~
もう知るか、とICUを出て行った

初めての謝罪


 退院後から2カ月たった頃、また、食事に対して夫が文句を言った
相変わらずのものいいにムッとした、怒ってもどうにもならないと、無言で席をたち、皿を洗っていた。

 すると私に近寄り、「ごめんな。こんな言い方だな。俺はいつもこんな言い方をして人を傷つけるんだよな」


 初めて聞いた謝りの言葉だった。


 




 夫は、ブラックジョークが自分らしさだと思っていた。そして、みんなを楽しませようと頑張った。
 でも相手がイラついた時は、あたふたしながらも、その場をとりつくろってさらに頑張った
 
 実際、周りも楽しんだし、私も楽しかった。

 下をうつむいて謝るの彼は似合わないなと思った。

 むしろ、謝らないで欲しい、とさえ思ってしまった

 
 夫のブラックジョークは、わじわじ~(=いらだつ)したけど、やっぱり、夫のいい所でもあった(悪い所でもあったが)


 あの毒舌が、あのブラックジョークが、今はただ懐かしい